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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)3576号 判決

控訴人(一審被告)

勝山電機株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

鷹取重信

福田正

草尾光一

宮本圭子

被控訴人(一審原告)

株式会社ウチノ

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

松本司

右補佐人弁理士

【C】

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要、争点、争点に関する当事者の主張は、次に付加・訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」及び「第三 争点に関する当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決八頁三行目の「である」を「であり、イ号物件は一素子のトランジスターにコンデンサーを直列接続したものである」と、同九頁四行目の「である」を「であり、イ号物件は各トランジスターユニットにコンデンサーを直列接続したものである」とそれぞれ改める。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、被控訴人の本件各請求には理由があり、その請求はいずれも認容されるべきものと判断する。控訴人の当審における主張にかんがみ検討しても、右判断は左右されない。

その理由は、以下に付加・訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第四 争点に対する当裁判所の判断」に説示するとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の補正等

1  原判決七八頁一行目の「する」の次に「と」を加える。

2  同八五頁六行目の「トランジスター」の次に「(それ自体独立したトランジスターとしての機能(特性)を有し、一つの物品として認識することが可能な部品としてのそれ)」を加える。

3  同八九頁二行目の「需要者が」から同頁四行目の「部品」までを次のとおり改める。

「それ自体独立したトランジスターとしての機能(特性)を有し、需要者が、それを回路構成要素の一つの独立した単位と認識し、その特性に着目して購入(準備)・保管し、接続・組立て等の取扱いをすることができる(したがって、所要の端子(少なくとも三端子)を通じて外部からの電気接続が可能であることが必要となろう。)通常の意味での部品」

4  同九〇頁五行目の「独立」の前に「前記のような意味での」を、同九二頁三行目の「接続すること」の次に「(構成要件(イ)ⅱ)」を、同頁四行目の「特徴である」の次に「ところ、控訴人の右主張は、この」をそれぞれ加える。

5  同九四頁一行目の「記載されている」から同頁六行目の「されている)。」までを次のとおり改める。

「記載されており、その意味が、部品等を機能体としてみた場合の単位表現という意味なのか、機能体としての回路を構成する要素につき一つの単位として取り扱われる範囲を示すものなのかは必ずしも明らかではないが、仮に後者であるとしても、その単位は物理的形状や機能的単一性を離れて自由にとらえ得るものとは考えられず、それ自体一素子と認められる部品を複数結合した全体を『素子』ということはできないから、『素子』とは、一般的には、回路の構成要素の単位となる部品をその機能面に着目して把握するときの呼称と認めるのが相当と考えられる(『素子』の意味につき、『一定の電気特性を持ち、かつ回路を作るために他の素子と接続する端子を持つ電機部品』とする説明もある〔マグローヒル科学技術用語大辞典第2版等〕ことは、当裁判所に顕著である。)。なお、トランジスター等複数の本来的回路素子からなる集積回路も、回路要素として機能しているときは『素子』と呼ばれるが、それは、集積技術の向上の結果、本来的回路素子が一枚の基盤上又は基盤内で分離できない形で結線され、それらが一個の部品、一つの単位として取り扱われるようになったためであって、このような状態にまで至らない素子の結合・ユニットをもって『素子』ということはできない。」

6  同九四頁六行目の「たとえば、」から同九五頁三行目末尾までを削り、同頁四行目から同九六頁一行目までを次のとおり改める。

「そうすると、前記のとおり、本件発明において、『トランジスター』とは、それ自体独立したトランジスターとしての機能(特性)を有し、一つの物品(回路構成単位)として認識することが可能な部品を意味するものと解するのが相当であって、『素子として』とは、これを機能面に着目して把握・表現したものと解される。外形形状、寸法、パッケージ手段、端子の形状・配置、独立部品か複合部品かといったトランジスターの『形態』につき、いかなる『形態』をとるかが本件発明の本質に関係しないことは控訴人主張のとおりであるとしても、それは、あくまでも部品として一個の金物であることを前提とするものである。これに対して、控訴人のいう、トランジスターを独立して使用するか、並列接続して使用するかは、トランジスターの『使用形態』の問題であって、トランジスターの『形態』そのものとは異なる。」

7  同九八頁二行目末尾の「『」から同頁三行目の「該当するか」までを「『それ自体独立したトランジスターとしての機能(特性)を有し、一つの物品(回路構成単位)として認識することが可能な独立した金物(ハードウェア)としての部品』であるトランジスターを二個直列に接続したものといえるか」と改める。

8  同九九頁四行目の「での」の次に「内部配線」を加え、同行の「である。」の次に「確かに、右各トランジスターユニットの内部には、トランジスター、ダイオード、抵抗等の機能を有する内部配線が認められるが、それらは、樹脂モールドを通して他の部品と接続するための端子を有するものではなく、通常トランジスターの有するベース、エミッタ、コレクタの三端子は、各ユニットごとに一つずつ設けられているにすぎない。トランジスターの性能(特性)も、各ユニットごとに計測され、需要者に紹介されるものである。」を加える。

9  同九九頁五行目の「そもそも」から同一〇〇頁四行目末尾までを次のとおり改める。

「そもそも富士モジュールをはじめとする富士パワートランジスタモジュールは、富士電機株式会社が種々の応用分野を想定し、複数のトランジスターを内蔵して必要な入出力端子を設けた汎用性のある部品(複合部品)として設計し、樹脂モールドした完成製品として販売しているものである。需要者においては、カタログ(甲一五)の中から、端子構成から把握される各トランジスター素子ごとの特性に着目し、それを一つのスイッチング機能を有する部品として選択するものであって、右の構造以上にその内部構造を考慮する必要はなく、各ユニット(トランジスター素子)及びモジュールそれ自体の流せる電流の大きさ、スイッチング時間等の性能を目安に、自己の製品・回路に採用するかどうかを検討すれば足りるのであり、その内部回路を変更するようなことは予定されておらず、内部構造の一部のみが破壊された場合も、その内部構造を修理して再使用するようなものではなく、その一つのモジュール全体を取り替えてしまうものであるから、各ユニット(トランジスター素子)の内部構造であるトランジスター等を更に一つの部品として扱うことが予定されていないことは明らかである。したがって、富士モジュールについても、その端子構成からして二個のトランジスター素子を直列接続した構造のパワートランジスタモジュールとして販売されており、前記各ユニットの内部構造であるトランジスター等を独立した部品として扱うことは予定されていないものというべきである。」。

10  同一〇〇頁五行目の「トランジスターユニット」の前に「控訴人の主張する」を加え、同頁一〇行目の「富士」から同一〇一頁三行目末尾までを「富士モジュールの前記内部構造中、二つのダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニット101aと、同じく二つのダーリントントランジスターを並列接続したトランジスターユニット102aとは、それぞれがそれ自体独立したトランジスターの機能(性能)を有し、一つの物品(回路構成単位)として認識することが可能な、独立した金物としての部品であって、それぞれが本件発明にいう『トランジスター』に当たり、富士モジュールは、」と改める。

11  同一〇二頁一〇行目の「トランジスター」の次に「(小トランジスター)」を加え、同一〇三頁四行目の「をいうから」を「をいい、A物件では、トランジスターユニットを構成する複数の各トランジスター(小トランジスター)が、この『トランジスター』に当たり、『素子』としてとらえられる(乙二九においても、この小トランジスターが『素子』に当たることは認められている。)から」と改め、同頁五行目の「である。」の次に「また、A物件の各トランジスターユニットは、複数のトランジスター(小トランジスター)を並列接続したものであり、各トランジスターにそれぞれ直列にコンデンサーが接続されているわけではないから、本件発明が不均衡電流及び連鎖的破壊という課題を克服するために採用した構成要件(ロ)ⅱの要件を充足していない。」を、同頁六行目の「(イ)ⅱ」の次に「及び(ロ)ⅱ」をそれぞれ加える。

12  同一〇六頁四行目の「特許法」の次に「(平成一〇年法律第五一号による改正前のもの)」を加え、同頁六行目の「請求するところ」を「請求していたが、右請求は、現在では特許法一〇二条三項にいう『特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する金銭』を損害額として賠償請求をするものと解されるところ、」と改め、同行の「通常」を削る。

第四  結論

以上によれば、被控訴人の本件各請求はいずれも認容すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴は棄却を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

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